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大牟田市社会福祉協議会発行の「社協だより」に『朗読ボランティアをしてみませんか』という会員を募る記事を見つけたのは、私が35歳のときでした。幼い頃から読書が好きで読み聞かせには多少の自信もあって、自分の好きなことが役に立つならば……という思いと、当時、娘が幼稚園に通 い始め子育ても一段落したので、手の離れた時間を有効に使いたいという日頃からの思いが重なったことから、ボランティアグループ「大牟田朗読の会」に早速、連絡を取って入会を決めました。

この会は、点字が解読できない視覚障害者の方にも読書を楽しんでもらおうと、市の福祉行政と図書館の障害者担当部門が一体となって録音図書作りをするという趣旨に賛同して作られたもので、メンバーは現在60人。書物や新聞のコラムを朗読してカセットテープに録音するのが主体です。

今でこそ1100種類、6000本の録音テープがありますが、私の入会当初は会もまだ発足したばかりで試行錯誤の段階でした。現在では年に一度、朗読の基礎を学ぶ10回シリーズの朗読ボランティア養成講座を開いていますが、当時は月に一度、土曜日の午後に、創立以来の会員で国立有明工専に勤務していた島本さんをリーダーとして、漢字の読み方やアクセント等、録音図書作りの基礎になる勉強会を開いていました。

日頃は辞書を身近に置いて活用する習慣などありませんでしたが、辞書は入会当初から読み方が分からない漢字や人名、地名などの下調べに片時も離せない存在になりました。

また、この会は大牟田ボランティア連絡協議会に所属していますので、障害者との交流会や運動会等の協力を要請されたときにはお手伝いをするのですが、これは私にとって自分を改めて見つめ直す良い機会になっています。

今でも強く印象に残っているのですが、八重桜の咲く5月の初旬に交流会が開かれて同年輩の女の方と手を繋いで甘木山(大牟田市内にあります)へ行ったときのこと。その方は桜の花に触って花の美しさを実感すると、サッと手折って髪に飾りました。例え視覚障害はあっても常に女性として愛らしくありたいとする鋭い感性に魅力を感じて、ハッとしました。

また、全盲なのにお料理や編み物を上手にこなす方から「簡単なこと」と言われて、私の方が“やる気さえあれば……”と、元気づけられたこともあります。

活動する中での嬉しいことの一つは、図書館にテープが戻ってくるとき『宜しくお伝えください』と一筆添えられていたり、直接電話で「あの本を読むのは大変だったでしょう」等、相手からの反応。心と心の触れ合いを感じます。

録音は雑音が入るのを防ぐためにそれぞれの自宅で行いますが、文章を理解するために4、5回線り返して読むことなど当た前、世の中が進み、数多くの刊行物に私たちの勉強が追いつきません。そのために私は、テキストと添削の課題文を読んでテプに吹き込んで送ると添削後に返却してくれるNHK日本語センターの通 信添削を十何年も受けていますが、それでもプロのり口にはかないません。何事も奥を極めるのは大変です。でも、そんな地道な勉強の成果 でしょうか、平成元年にNHKの朗コンテストで優秀賞をいただきました。










大牟田朗読の会の仲間と

   
それ以後、賞とは稼がなくなりましたが、朗読のレベルの高さを実感して、分かりやすく聞きやすい朗読を目指すために年に一度、放送局のアナウンサーを招いて勉強会を開いています。そんなときの同じ目的を持つ向上心ある仲間の素晴らしさは格別 です。80代と30佗の方が同じ感覚でつき合えるのは無論のこと、目指すものが一緒なので会話も弾み、楽しくかつ有意義です。年に一度の研修旅行に行くときなど心から納得します。皆さん本が好きで、読んでいると自分も楽しいし、それで人様の役に立てるならばそれにこしたことはないと思うからこそ、良いテープを作りたいと、より勉強するんですよね。ですから、テープが完成した喜びは大変なものです。

通常90分テープを1本作るのに何十時間もかかります。読み間違いがないよう注意しますが、間違いに気づけば、すぐ読み直し、普通 の厚さの単行本で90分テープが5、6本、450分から500分くらいかかります。それを本に添えて校正に出すのですが、他人に聞いてもらうと自分では気づかない誤りも出てきます。それを訂正した後、見落としたところはないか2次校正に出し、訂正する箇所があれば訂正して、初めて図書館に提出できるのです。ですからどんなに読み手が速く読んでも1冊仕上げるのに2カ月はかかります。ベテランだと年間8冊くらい読めますが、これから始める方には1年で1冊仕上げることを目標においてもらっています。

最初の頃は分からないまま読み進めていましたが、作者の思いが伝わるよう大事に読みたいと思うと読めなくなるもので、当時のテープを聞くと“なんでこんなんして読んだのかな”と思います。

現在利用している方は100名くらいですが、糖尿病などで失明して点字の読めない中途視覚障害者が増加しているため、ますます録音図書は必要になってくるでしょう。

そんな私の気持ちを理解してくれてか主人が平成元年に家を新築したときには、できる範囲の防音装置が整った録音室を一部屋作ってくれました。

会の創立20周年を迎えた平成10年には、記念朗読会を開催、日頃お世話になっている各団体の方たちを招待して、会員が参加者80名の前で詩やエッセーを読み上げて節目を祝いました。

ひとことで20年といいますが、その間にはいろいろなことがありました。先輩を亡くしたり、「もう一度読みたい」と言いながら病に倒れた私と同年輩くらいの方。そんなときは辛く悲しい思いをしました。でも、そんな会員に応えるためにも、現在80を超してはつらつと活動している方にあやかろうと自分を元気づけています。大変だと思えば大変ですが、楽しいと思えばまた楽しいものです。


勉強会で

   
例えば、私は養成講座の講師を務めていますが、初回は受講者の自己紹介かたがた皆んなの声を聞き、次回からは課遁をテープに吹き込み提出してもらいます。それを基に学習を進め、良いところは褒め、直すところは少しずつ変えていきます。毎回テープの宿題が出るので講座の修了後に初回のテープを聞くと、受講者自身、見違えるように上達しているのが実感できます。これは本人ばかりでなく私にとっても嬉しいことですし、指導する立場になって初めて私自身も基本を確認するので、自分の上達にも繋がることになります。

私も年々年寄りの仲間入りをしていくのでこれからは若い人に期待して、後継者を育成していかなければと、力が入ります。我が家の次女も去年から入会して活動してくれるようになりました。娘たちは視覚障害者の方に気軽に声をかけたりして偏見が全くありません。

私は自分のライフワークの中で、本当に良いものに巡り合えました。幸いにも平成9年1月2日には、NHKラジオ第2放送の正月番組の『新春朗読』でアナウンサーたちと一緒に朗読する機会にも恵まれました。

振り返ってみると、私自身、やめたいという人を引き止めることはあつても、やめたいと思ったことは一度もありませんでした。これは家族の協力があればこそですが、私は目が見えて声が出る限り朗読ボランティアを続けていきたいと思っています。そして、20年間朗読を続けた自分への記念に、いつの日かお茶など飲みながら気楽な気持ちで聞いてらう個人の発表の場を持ちたいと夢見ています。(平成12年4月)

創立20周年記念朗読会で